神奈川の海・釣り物語(イナダ釣り)

イナダを知る



出世魚

   この魚は成長するに連れて呼び名が変わる。関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリとなる。遊漁の世界では、それほど厳密に区別されているわけでもない。
  8月1日に、湘南方面のワカシ釣りが解禁になる。この頃の魚は、まだ20cmそこそこだ。一潮毎に成長し、秋口には30cmほどまでに大きくなる。その頃になると、新聞の釣況欄の見出しはイナダに変わる。
  早い年には、この頃同時にワラサやブリが回遊してくる。3キロ前後のものをワラサ、7〜8キロになるとブリと呼ぶ。 三浦の海では、ブリはなかなか釣れないようになっている。
 
藻ジャコとイナダの関係

   ハマチは関西方面の呼び名だ。ハマチ養殖全盛の頃は、イナダがほとんど回遊してこない年もあった。
 養殖に使う稚魚を藻ジャコと呼ぶ。流れ藻に付いて生活するジャコ(雑魚)だから藻ジャコだ。当時は南の海で、これを大量に捕獲していた。

 ハマチ養殖が下降線を辿るのと平行して、神奈川の海にもワカシ、イナダがたくさん回遊してくるようになった。ワラサやブリも、関東近海で何とか遊漁の対象になるぐらいに魚影が回復しつつある。
 昔は大磯の沖の辺りにも、ブリの定置網があって活況を呈していたらしい。釣友は、久里浜沖の深場でヤリイカを釣り、それをエサにアシカ島周りでワラサ、ブリを釣った時代もあったらしい



湘南のワカシ釣り

  20cmにも満たないワカシが市場に出ることはまずない。このぐらいの時は不味くて食えたものではないからだ。

 この魚を湘南の船宿は客寄せに使う。ともかく数だけは馬鹿みたいに釣れる。サビキで釣るから、素人でも束釣りしたりする。ブリの子供だなどと囃し立てるから、良く知らない人はたいそうな魚だと思ってしまうらしい。
 この釣りには、年に1、2度ぐらいしか釣りをやらないような人が来る。だから、あまり難しいことは言わない。何でも釣れれば満足して帰ってくれる。かくて船宿はワカシ様様となる。

 このワカシ釣りを止めれば、イナダもワラサもブリももっと釣れるようになるはずなのにといつも思ってしまう。

イナダのカッタクリ釣り

   両腕で、目の前に漢字の8の字を描きながら道糸を手繰り上げてくる。これがカッタクリと言われる釣り方だ。この釣り方だと、イナダは水面近くで釣れることが多い。
 鉄仮面と呼ばれるステンレス製のコマセ缶が、キラキラと光りながら水中を駆け上がってくる。この動きが、魚の捕食本能を刺激するらしい。
 テンビンの先には、2m前後の仕掛けが付いている。先には、バケと呼ばれる擬餌が2本結んである。これをイナダが小魚だと思うのか追ってくるのである。

 イナダ用のバケはハモとバラフグの皮が定番だ。釣り場に着くまでに、このバケをバケツに汲んだ海水の中に漬け、軟らかくしておく。
 ポイントに付くとアンカーを打って釣りの開始だ。船縁に半身になって腰をかけ、釣り人が一斉に拝むように両腕で8の字を描く姿は、何か宗教的な儀式をやっているようにも見える。イナダの群れはわっと来てさっと居なくなる。これが何時来るか分からないから、手を休めることも出来ない。
 最近は大型船にびっしりと詰め込まれた釣り人が、絶え間なくコマセを撒き散らす。その為、一度廻ってきたイナダの群れが船に付いて離れなくなることがある。こんな時は、釣れ始めると切れ目無く釣れる。

ワラサ釣り

  今期も一度だけワラサ釣りに行った。しょっぱな船中で1尾上がった。しかし、その後はずっと沈黙が続いた。

 私はまさか釣れないだろうと3.5号のハリスでやっていた。マダイとの両狙いのつもりだった。ところが、忘れた頃にいきなり竿先が水中に引っ張り込まれた。「アアアー」と言っている間に、竿先は空しくも水平に戻ってしまった。
 結局この日は、タイもイナダも本命のワラサも釣れずに、坊主で帰る羽目になってしまった。確かにワラサ釣りは宝くじを引き当てるようなところもある。

 しかし、この時期漁師は引き釣りで20本も30本も上げてくる。港では帰り際になるとその漁師が釣ったワラサを売っていたりする。これを見ながら空のクーラーボックスを担いで帰るのは何とも惨めなものである。
 イカやアジの活餌でやるともっと確実に釣れるはずだ。昔は、久里浜のアシカ島周りで、活きたヤリイカを餌にワラサやブリを釣らせてくれたものだ。

魚皮よりもウイリー

   イナダ用に様々な擬餌が開発されている。魚皮は昔から使用されている代表的な擬餌だ。ハモ、バラフグ、ナマズ、ハゲ、シャミなどが代表選手だ。ちなみに、シャミは猫の皮のことだ。夜光のパイプも捨て難いし、水色のスキンも効果的だ。近年はウイリーも幅を利かせている。

 ウイリーならコマセシャクリ釣法で攻める。イナダはモスグリーンやピンクがお気に入りのようだ。この色を使えばアタリハズレはあまりない。それに外道のマダイやイサキにも効果的だ。

 ウイリーと夜光パイプの擬餌は自分自身でも簡単に作れる。東京湾内のイナダには、バケよりもウイリーの方がずうといいようだ。

ハリスは細い方が抜群に食いはいい

   さしものイナダの猛攻も、コマセに飽食すると止まってしまう。それでも、足元に魚が居るかどうかは、気配で分かるものだ。魚が未だ居る時は、何やら仕掛けに触るよう感触が手元に伝わってくる。そんな時はハリスをワンランク落としてみるのも手だ。途端に食いだすことがある。

 フロロカーボンなら3号でもキロ級を取り込むことが出来る。軟調の長竿なら2号でも捕れないことはない。ただ、混雑している時は細ハリスの使用は避けた方がいい。一気に巻き上げることが出来ないので、魚を遊ばせることになるからだ。そうすると、どうしても周囲とオマツリする確率が高くなる。

 細ハリスの時は、取り込みは必ずタモを使うことだ。無理して抜き上げたりすると、ハリスが簡単に切れてしまう。

 他に誰も釣れていないのに自分だけが入れ食いだ。これは気分としては最高だ。臨機応変にいろんなことを試してみることだ。

釣り座は胴の間を避ける

   イナダは水面近くまで来ると横走りをする。混雑している時はこれでオマツリが続出して大混乱になる。だから、釣り座はトモかミヨシを選ぶ方が無難だ。そんな時はハリスも5号ぐらいにして、強引に巻き上げるようにする。

 イナダはハリ掛かりすれば、途中で外れるようなことはまずない。水面まで上がってきたら迷わず一気に抜き上げる。端に釣り座を取れば、オマツリに巻込まれずにマイペースで釣りに没頭できる。

早朝が有利

    何の魚でもそうだが、早朝の一時は格別魚の食いが立つものだ。イナダ、ワラサも早朝出船にこしたことはない。

 仕立船で出るなら出船時間は原則自由だ。日が登る前後の朝マズメを狙わぬ手はない。魚のペースに合せることが肝要だ。
 仕立てだからとのんびり出船するスケジュールを作る幹事が居る。特に会社のお偉方が参加する場合に、それが多い。これでは初めから「魚は釣れなくてもいいですよ」と宣言したのと同じだ。船頭も、こんな客だと必死で釣らせたら悪いと思うから、手加減するようになる。



直ぐに〆る

   イナダは結構血の気の多い魚だ。だから、鮮度が落ちるのも速い。釣上げたらすぐに鰓蓋の付け根に包丁を入れ、活け〆をする。これをしないと、自宅に到着する頃は、内臓や血合いのところがもう臭くなっていることがある。

 遠方に送る際などは、釣ったその場で内臓を鰓ごと抜き取っておいた方がいい。多少格好が悪くなるが、鮮度は長持ちする。

 釣れすぎて、持参のクーラーボックスに入らなくなると、樽に放り込んだままになる。11月頃までは、日中の船上は結構暑い。魚の鮮度は急速に落ちてしまう。家に帰って魚の腹を割いたらプンプン臭ったりする。腹に詰まったコマセが問題なのだ。釣ったらすぐに血抜きをしておけば、こんな事にはならずに済む。

旨くなるのは晩秋以降

   イナダが食べて旨くなるのは、10月も後半になってからだ。しかし、この頃になるとあんまり数が釣れなくなる。ムラッ気も多くなる。

 小アジ釣りが最盛期を迎えるが、この小あじを追っかけてイナダ、ワラサが東京湾内にも入ってくる。この頃になると、観音崎沖や走水沖でもワラサが狙える。

 アジ船に乗って、釣れた小あじで狙うと面白いように掛かることがある。イナダは丸々太って、みなキロ以上だ。養殖もののハマチほどではないにしても、腹身の辺りにはコッテリと脂が乗っている。
この頃のは、断然刺し身が旨い。大根のアラ炊きもいける。汁の表面に脂が浮く。

タナとり
 
  ワカシに毛の生えた頃のものは、水面下10mぐらいの上層で捕食することが多い。イナダと呼べるほどに成長すると、底から5〜6mがタナになる。それでも日によっては、5〜6ヒロも上がることがあるから、タナ取りは重要だ。
 コマセシャクリなら、糸ふけを取り2〜3m巻き上げたところからシャクリを開始する。上は水面から10〜15mまで探る。イナダの前アタリはモゾモゾとした微妙な感じのものが多い。そこですかさず竿を立てると一気に〆込んでいく。
 タナが決まったら、その上下ハリス分を探るぐらいで充分だ。釣れなくなったら再び原点に戻って、広くタナを探るようにする。
 カッタクリは両手八の字が原則だ。一動作一秒ぐらいのリズムが丁度いい。このリズムは、やっていると自然に身に付いてくる。カッタクリだだと、魚が水面スレスレ迄追いかけてくるから最後まで気が抜けない。

誘い釣りか置き竿か

   群れの足を止められない日は置き竿が有利なことがある。こんな日は嫌な釣れ方をするものだ。漸く群れが廻ってきても、船中2、3尾釣れたぐらいで終わってしまう。それも真面目に釣っている人にではなく、置き竿にしたまま遊んでいるような人にばかり掛かる。
 こんな日はムキになってやっても損だ。思い切って置き竿釣法に変えてみるのも作戦の中だ。長竿に細ハリスと言う手もある。勿論オキアミの餌釣りだ。
 気分を変えるには、底近くを重点的に攻めてマダイを狙うとか、水面近くまでタナを上げてソウダガツオと戯れる手もある。良型メジナも結構上のタナで食ってきたりする。
 釣れない時はじっと辛抱する。しゃかりきになると疲れるだけだ。人生と同じよ!

シャクリ方は?

 ウイリーのシャクリ釣法だが、ハナダイほど神経を使う必要はない。竿先が竿自体の反発力でじわっと戻るアクションを演出出来ればそれでいい。これだと戻りの最中でもアタル。

 ウイリーのシャクリ釣方で、カッタクリの並みの速さでしゃくりあげてみる。仕掛けの動きが一瞬止まった時にアタル。どんな速さでシャクろうが、仕掛けが一瞬止まれば必ず食ってくる。

魚皮はコマセシャクリにはあわない

   魚皮は上へ上へと逃げ惑う小魚を演出するものだ。ところがコマセシャクリには不向きのようだ。魚皮とウイリーを同時に試してみたことがあったが、ダントツでウイリーの方が食いが良かった。
 カッタクリにもウイリーを使ってみた。ソーダ、サバなどの外道も多かったが、本命も高確率で釣れた。カッタクリでもウイリーの方が有利なような気がする。

ハリは小さ目のものを

   ハリはチヌの3号が標準だ。しかし、食い渋り気味なら2号に落としてみてもいい。ただ、安物のハリは伸びたり折れたりするから要注意だ。繊細な仕掛けに使うハリは多少高くても信頼性のある物を選びたいものだ。
 ハリのチモトには夜光玉かパイプを付ける。イナダは夜光パイプで作った擬餌にも良く釣れる。夜光グリーンは確実に効果がある。



カッタクリじゃ釣れない東京湾のイナダ

   東京湾のイナダ釣りではカッタクリをしている釣り人をまず見かけることが無い。東京湾でイナダが釣れ出すのは9月になってからだ。相模湾よりかなり遅れる。
 
 初期のイナダにカッタクリが有効なのと関連があるかもしれない。相模湾のシラスは有名だが、東京湾ではまったく聞かない。餌の関係かもしれない。
 私も何度か下浦沖でカッタクリに挑戦したことがあった。しかし、あまり芳しくないので直ぐに他の釣り方に変えてしまうのがいつものパターンだった。今はコマセシャクリ1本だ。
 オキアミ餌で釣る人も多い。下バリ1本だけ空バリにしておき、これにオキアミを刺す。上2本のハリにはウイリーを巻いておく。これが東京湾の標準仕掛けになってきた。
 食い渋り気味の時は、オキアミのエサ釣りに歩がある。

スキンも有効だ

   青系統のスキンが、イナダには何故か効果絶大だ。飴色のスキンはアジ釣り用の擬餌に古くから使われている。相模湾では、青色のスキンがワカシ、イナダ用の擬餌として定着しつつある。
 スキンの素材は買い込んでおくとすぐに劣化してメタメタにとけてしまう。それで印象が悪かった。ところが最近は化学素材のものが出てきて、長持ちするものも現われるようになった。今後用途が広がるかもしれない。

時化前に荒食い

   魚の食いは概して荒天時にいいものだ。大きな低気圧が接近してきて海が荒れ出した途端に、入れ食いになったりする。イナダに限らずマダイなどでも、そんな経験を何度もしている。
 時化後は、また海の様子が一変する。イカなどは時化後が狙い目だ。しかし、回遊魚は大抵姿を消してしまうことの方が多い。

 天気が悪い日は客足も鈍る。船の数も減る。魚は食い気まんまんだ。終日釣り放題ということも、長い釣り人生の中では何度かあった。

釣り場



毘沙門/城ケ島沖

 根周りの平場を狙う。水深は40m前後。松輪、毘沙門、三崎、小網代の船が攻める。ムラッ気がある。。

アシカ島/笠島周り

   アシカ島と笠島周りは暗礁地帯になっている。船で通りかかると、水中の岩が見える場所もある。この付近も、水深が200mぐらいまで一気に落込む急な掛け上がりになっている。

  この急斜面の30mラインを狙う。この周辺は、職漁船が行うワラサの引き釣りの好ポイントでもある。やはりこの近くにもハナダイの好ポイントがある。

下浦沖

 東京湾の中でも最高のポイントだ。水深は30m。東側は急峻なカケ上がりだ。浦賀水道中央部にある水深400〜500mの擂り鉢の底にどーんと落込んでいる。
 ここには頂上の水深が15mしかないホウロク根がぽつんと聳えている。この周りが魚の宝庫だ。マダイ、クロダイなども群れている。
  
 イナダは、例年9月頃から11月頃までこのポイントに付くようになる。ハナダイの最高のポイントもこの近くにある。
吉野瀬(ワラサ)

 剣崎と千葉県側の富浦とを結ぶ線の中間地点にある。この場所も、水深600m近くまで落込むカケ上がりの肩の部分にある。イサキやマダイで有名な松輪瀬(吉野瀬)が近くにある。
 今期はワラサの時期が長く続いた。最盛期は50隻を超す釣り舟がこのポイントにひしめいた。順番にポイントに入るしかないから、船は大流しを繰り返す。一流しで、船は相当な距離を移動する。タチも刻々と変わる。いつ当たるかは、船も釣り人も天まかせだ。
 タナはハリス分巻き上げたところだ。だから、エサが流れるのは底一杯というところだ。細ハリスの方が断然食いはいい。細ハリスを使うなら、ハリス切れを防ぐ為に、軟調の長竿を使う。
 好調だと言っても、そんなに簡単に誰にも彼にも釣れるわけではない。なかなか釣れないから、何度か通わないことには要領が飲み込めないようになっている。

相模湾

   諸磯沖、佐島・亀城根、江ノ島周り、茅ヶ崎・烏帽子岩沖、大磯漁礁周りなどポイントはたくさんある。こちらは何処もシーズン前半の好ポイントだ。

 私は、イナダ釣りは魚が東京湾に入り込む後半からにしている。その頃になると食べても少しは旨くなるからだ。

 メジマグロ、小イサキ、ワカシ、カマスと回遊魚は、まず江ノ島周辺に現われる。ここで一網打尽にされたら、城ケ島や剣崎方面まで魚が廻ってこなくなる。いつもそんな心配をしてしまう。

 30cmのメジマグロを釣ってどうするの?放っておけば何百キロの本マグロに成長するのに。
 15cmのワカシを釣ってどうするの?放っておけば10キロのブリになるのに。


仕掛け







ハリ

   金チヌの2〜3号が標準だ。ウイリーはモスグリーンとピンクの2種類を揃えて置けば充分だ。チモトに夜光パイプや夜光玉を付けると効果的だ。夜光玉は硬軟どちらでもいい。

 魚皮のバケはカッタクリ用の出来合い品を購入する。暇と意欲があるなら、自分で作っても面白い。カブラバリと魚皮と赤い木綿糸を購入する。魚皮はハモとバラフグの2種類があれば充分だ。
 市販のバケを分解して、まず型紙を作る。その型紙通りに魚皮を切り取ったら、それを水に漬けて軟らかくする。軟らかくなったところでカブラバリに巻き付け、紅いカタン糸で縫って固定する。
 紅いカタン糸は手芸店でも買える。最初は縛ったり巻き付けたり縫ったりとなかなか難しい。下手すると釣っている最中に外れてしまうものもある。しかし、懲りずに何度かやれば上手になる。
 魚皮は1尾分あれば何年も使える。

ハリス

   フロロカーボンの3〜4号が標準。食い渋りのイナダを2号のハリスに交換して連釣したこともあった。大型は2号だと抜き上げる時にハリス切れすることがある。タモが必要だ。
 ワラサなら5〜6号が無難だ。やり取りに自身があるなら、長竿を使い4号で挑戦してみても面白い。ただし、船内が混雑している時はオマツリの原因になるので遠慮した方がいい。

リール

   コマセシャクリなら軽い方がいい。カワハギ釣りに使う小型両軸リールでも充分だ。長竿や万能竿なら中型両軸リールがお勧めだ。道糸は新素材4号を200mも巻いておけばいい。中型リールなら300mは巻けるはずだ。そのぐらい巻いておけば、深場を狙うヤリイカ釣りにも使える。

 道具に金をかけるのが趣味の人も居る。しかし、魚に道具が見えているわけではない。竿は、機能さえ満足していればそれでいい。値段の差ほどは釣果に違いが出ないものだ。
 なるだけシンプルな道具で釣る、これが私の基本姿勢だ。シンプルだからこそ、釣りをしていても直接自然の息づかいが感じ取れるのである。

 次の例え話はいささか飛躍のし過ぎかもしれない。私は道具を見せびらかしている釣り人を見ると、発展途上国で札びらを切って威張っている頭が空っぽな金持ち日本人を連想してしまうのである。

竿

   私はコマセシャクリ専門だ。だから、全長2.1m、オモリ負荷30号のコマセシャクリ専用竿が、私の愛竿だ。この竿は、ハナダイ、イサキ、イナダ、マルイカ、タチウオとなんでも使えるので重宝している。
 置き竿にする時は、全長3.6m、オモリ負荷30号のマダイ竿を使う。コマセシャクリにも置き竿にも使えるのが、万能竿だ。全長2.7m、オモリ負荷40〜60号のものを使う。
 道具は兼用で使いこなすことだ。釣り具メーカーに自分が釣られないようにすることだ。

コマセカゴ

 プラビシかステンカンが主流だ。カッタクリやコマセシャクリにはステンカンがいいようだ。負荷オモリは60号が標準だ。

食べる

 あまり食べて感動するような料理法が無いのであらためてここに書こうとすると考え込んでしまう。やはりイナダは食べるよりは釣って面白い魚だ。

 ありふれているが、刺し身、焼き魚、照焼き、アラ炊きなどが思い浮かぶだけだ。たくさん釣れた時は味噌漬、みりん漬け、西京漬けにすると保存が利く。
 サク取りして一晩も冷蔵庫に入れておくと、血合いのところなど黄色く変色してしまう。生臭みも出てくる。鮮度に敏感な人には難しい魚だ。

 その晩刺し身で食べる分と塩焼きの分以外は、直ぐにタレ(醤油みりん)に漬け込む方がいい。2、3日漬け込んで、充分タレが廻ったら密閉して冷凍保存する。冷蔵庫の中で生干しにしてからでもいい。

こぼれ話



十年ひと昔

   イナダ釣りは苦手の釣り物の一つだった。なかなか釣れなくて、長い間コツが分からずにいた。仕立船で行く機会が多かったこともあった。仲間内の釣り会だから、釣果よりも親睦がメインになってしまう。食べたり、飲んだり、だべったりと結構一日が忙しく過ぎて行ったものだ。船頭もそれを見ているから、何が何でも釣らせようとシャカリキになることも無かった。
  会では、キス、カワハギ、ハゼ以外は邪道だと思われていた。漁師の領分だからだ。当時の釣り人にはそんなこだわりもあった。30年以上も前のことだ。

  キス、カワハギ、ハゼ釣りは必ず大会形式で、厳粛に行われた。席順もくじ引きで決めた。順位も乗った船の差を考慮して、横取り式にするのが一般的だった。
 その中、釣り好きのオーナー社長が急死して、会のありようも一変した。「食べて旨い魚を釣ろう」「漁師の釣り、結構じゃないですか」とたきつけたのは私だった。私には魚屋でしか見たことの無い魚が釣れるのが無性に嬉しかったのである。
 私の生まれ育った地域は海からは随分と離れていた。川や清水で捕った魚は食生活の一部だった。農作業の合間に、大人も子供もコイやフナやドジョウを捕って、食卓を補ったものだった。内陸部だから海の魚は珍しかった。サバ、イワシ、ハタハタの塩漬けぐらいしかなかった。子供の頃は海の魚を、特に刺身を腹一杯食べることが夢でもあった。

 会社の釣り会も、アジ、イサキ、イカと釣りの範囲を広げていった。声をかけると直ぐ2、30人は集まった。ところが相変わらず魚は釣れなかった。いつしか、釣れない釣り会として有名になってしまった。小物釣りなら都釣連の大会で上位入賞する名人ぞろいだったが、漁師がやる釣りに対しては皆初心者だった。
 釣りたい一心で、その内の何人かは乗合船に鞍替えした。私もその一人だった。当時はベテランがいちいち教えてくれるようなことはなかった。船頭でさえそうだった。初心者は見よう見まねで覚えるしかなかった。乗合船に乗るようになっても、なかなか腕は上達しなかった。
 10年ほど経って、私の腕も少しは上達した。船頭や他の客とさしで釣りの話が出来るようになっていた。しかし、釣り会は寂れて、人が集まらなくなっていた。会社の業績も左前になり、ぽろぽろと歯が抜け落ちるように仲間が居なくなっていた。
 それから更に10年が過ぎた。相変わらず私の釣りは続いている。竿頭になって、新聞の釣り欄に名前が載ったりする。釣果の面では充足している。しかし、仕立船でワイワイ釣った時のことを思い出すことが多くなってきた。年をとった証拠かもしれない。