神奈川の海・釣り物語(カワハギ釣り)

カワハギを知る

カワハギとウマズラハギ

  カワハギもウマズラハギは5、6月が産卵期だ。この時期はイサキだアジだイカだと、私の好きな魚が釣れるのでカワハギ釣りには一度も出たことがない。それでも、イサキ釣りをしているとウマズラハギのキロ近い大物が外道として時々掛かることがある。この時期のウマズラハギは、肥えた肝と卵で腹がパンパンに張っている。側で漁師が巾着網でわざわざ捕っているほどだから、商品価値は充分ある。これを活魚として出荷すると結構いい値が付くとも聞いた。

 ウマズラハギは悪食だ。動物性、植物性にかかわらず何でも食べるらしい。内臓は独特の臭い匂いがする。だから、釣上げたらすぐに頭の付け根に包丁を入れて、腹側に折るようにしながら内臓ごと頭を切り離して捨ててしまうようにする。
 残った身の方は海水でよく腹の中を洗い流してから、クーラーボックスに入れる。勿論卵や肝は残しておく。このように釣上げてから素早く下処理をしておけば、身や肝が臭くなることはない。

 この産卵の時期のウマズラハギは、脂が乗ると言う表現はオーバーだが何となくしっとりした身になるし、肝はしつこいくらいに脂が乗っている。これを甘辛く煮付けて食べると精力がついたような気になってくる。

 カワハギは冬場にもてはやされる魚だ。寒くなれば寒くなるほど肝が肥えてくる言われているからだ。しかし、我々が釣ってくるのは小型が大半だから、肥えたとは言えたいした大きさではない。1尾から取れる肝の量などたかが知れている。煮ている間に溶けてなくなってしまう。

 味自慢の店を紹介するTV番組で見るカワハギ料理に平気でウマズラハギが使われていることがある。特に関西以西がそうだ。板前がもったいぶって講釈していたりすると腹が立ってくる。かの地ではカワハギとウマズラハギの違いがないのかと思ってしまう。関東ではカワハギとウマズラハギとの間には大名と足軽ぐらいの開きがある。

 私自身はそんなに持ち上げるほどカワハギが高級魚だとか旨い魚だとは思っていない。ただ、釣りの対象魚としてはなかなか面白いと思っているだけだ。

25cm級は3年もの

  漁師から聞いた話だが、カワハギは1年で15cm、2年で20cm、3年で25cmに成長すると言う。沖釣りの対象になるのは、20〜25cmだから2、3年モノを釣っていることになる。

  例年、西風が吹いて水温が下がる11月頃になると、ワッペンサイズと言われる15cm級の小型のカワハギの束釣り情報が連日釣り欄を賑わせる。夏場は浅場に散っていたカワハギの当歳魚が水温の低下とともに深場へと落ちていき、特定の場所に集まってくる。そこを釣るのである。

  東京湾では竹岡沖が有名だ。極秘スポットとして鴨居沖のボート釣り場ポイントがある。一軒だけボート屋さんがあるが、この時期は予約しないと乗れないぐらいに混雑する。束釣りは当たり前だ。釣るには忍びない大きさなのだが普段なかなか釣れない魚だけに、カワハギ釣りの初級の愛好者たちは「今こそ敵討ちだ」とばかりに釣りまくるのである。

 ただし、釣趣はあまりない。カワハギ釣りは釣れないからこそ釣り人は燃える。簡単に釣れてしまうカワハギ釣りは、もうカワハギ釣りではないのである。失礼だが、この辺の機微は女性と似ている。



アワセは体全体で

  竿先にモゾモゾとアタリが出たら、すかさず体を反らせ、体全体でアワセルようにする。腕でアワセルよりもこの方がアワセのタイミングが速くなるからだ。カワハギのアワセは、間一髪を争う厳しいものなのである。

 赤井電機時代の話だが、故赤井三郎社長がこの釣りを好んだこともあって、カワハギ釣りが随分と盛んだった。私も海釣り入門したての頃に、社内のカワハギ釣り大会に初参加して、優勝したことがあった。並み居るベテランを打ち負かしての優勝だった。

 中学生の頃から渓流釣りをやっていて、魚信でアワセル釣り方が体に染み付いていたのが活きたようだった。

8:2調子の胴のしっかりした竿

  カワハギ竿は先調子が常識だ。理由は、胴に乗るようだと、その分アワセが一瞬遅れてしまうからである。8:2調子が一般的には好まれるようだ。
 しかし、場合によっては軟らかい竿が効果を発揮することもある。これは、食い込みがいいからである。特に、アタリが明確に出る浅場ではお勧めだ。

 初心者には、棒のようにぶっきらぼうな竿の方が、アタリは取り易い。

夕方に荒食い

  秋のカワハギは、夕方に荒食いをする。日中ずっと食わなくて、諦めて少し早めに竿をたたんだら、帰港間際にバタバタと入れ食いになったりすることがよくある。小一時間ほどで10尾、20尾と釣れたりする。
 船頭も釣れない日には遅くまで粘ってくれる。釣りたかったら最後まで諦めないことだ。チャンスは何時来るか分からない。

底50cm以内がタナ

  カワハギは海底近くを泳ぎ回っている魚だ。底から50cmぐらいの間を、2、3秒間隔で竿をあおりながら誘うのが一般的な釣り方だ。何時うまく餌がおちょぼ口に吸い込まれるか分からないし、吸い込まれても瞬時に吐き出してしまうことがあるので気が抜けない。

 ウマヅラハギはカワハギよりやや上の方で釣れることが多い。ウマが多い時は、速く仕掛けを降ろすことと、仕掛けを海底に這わせるような感じで釣ればいい。

 外道としてはベラが圧倒的に多い。西の方では珍重される魚のようだが、関東ではあまり喜ばれない魚である。砂地ではトラギスも釣れる。これは天ぷらにすると結構いける。
 キダイや小型のイシダイも釣れる。小型だがタコもよく釣れる。

リールの巻き上げは糸を緩めずに

   カワハギの口腔は非常に固くできている。だから、アワセが弱いと針が刺さらないことがある。カワハギは釣上げられる時、がっしりと歯を噛み締める習性がある。その為、ハリが刺さっていなくても釣上げられてしまうことがある。

 カワハギは巻き上げてくる途中でシャープな多段引きを楽しませてくれる。時々フワッと軽くなったりする。これがカワハギの特徴だが、この時に手を休めたり、糸を緩めたりするとバレてしまうことがある。

 引っ張られている時は必死に歯を食いしばっているのでハリ掛かりしていなくても上がってくるが、糸が緩んだ瞬間口の中の物を吐き出してしまうからだ。
 巻き上げる時は、常にテンションが掛かっているようにする。

アサリ剥きから

   カワハギ釣りは早起きから始まる。船宿に着くと、アサリを積み上げた洗面器を股間に挟んで、船客たちはアサリ剥きに余念がない。これが出船前の船宿のいつもの光景である。

 殻付きで1キロも剥けば充分だ。バターナイフのような専用の殻を剥く道具も貸してくれる。慣れない人でも、1時間もあれば1キロはわけなく剥ける。値段は5割ほど高いが剥き身でも買える。

 カワハギ釣りは、このアサリ剥きから始まる。河岸払いし、海上に出て船がスカンパを上げている間に海水を汲み、ザルに開けた剥き身の上から何遍もかけてヌメリを洗い流しておく。特に冬場は指が凍えてヌルヌルしたアサリはハリに付けにくいものだ。

仕掛けの予備は多めに

   年にもよるが、秋口にはサバフグの猛攻に悩まされることがある。これが食いだすと仕掛けがいくらあっても足らなくなる。あの丈夫な一枚歯をガチガチと摺りあわせて、ハリスを片っ端から食いちぎってしまう。
 岩礁地帯を狙うので、根掛かりが格別多い釣りだ。同じ仕掛けを使いつづけているとハリ先も鈍くなる。仕掛けを交換する回数も、ほかの釣り物に比べたらはるかに多くなる。



潮先が断然有利

   カワハギ釣りは船を潮の流れに乗せてゆっくりと流しながら釣る。だから、新地新地と釣れる潮先が絶対的に有利だ。スミイカやシロギスなら、遠方に投げた引きずってくる釣り方もあるが、岩礁地帯を釣るカワハギ釣りではそうもいかない。

 それでも、潮上に座った時は、多少足元から離れたところに仕掛けを投入してみるのも効果があるものだ。

 一日のうちで潮先は大抵一度ぐらいは変わるものだから、自分に釣れない時でも腐らずにじっと潮時を待つことも必要だ。

集器は必要か?

   一時期、仕掛けの上部に集器なるチャラチャラした物を附けることが流行した。メキシコ貝の薄片を貼り付けた長方形の小さな板だったり、金属板に表面処理を施した物だったりと様々な物が店頭に並んでいた。これらは、水中でヒラヒラと動いて、カワハギの興味を引くと言うのが謳い文句だった。

 その時は伝染病のように瞬く間に広がったが、その後はやや沈静化したようだ。最近は板の替わりにカラフルな浮き玉を多数連ねたモノを使用している人も見掛けたりする。釣りの世界も流行り廃りが結構激しいところがある。マダイ釣りの水中浮きなどもその典型だった。流行の裏に大抵仕掛け人が居るものだ。

 カワハギ釣りのテクニックの一つにタルマセ釣りなる方法がある。故意に仕掛けを弛ませて釣るやり方だ。仕掛けにテンションが掛かっていない分餌の吸い込みがよくなる。集器を附けると、仕掛けが上下する間に袋状に弛む瞬間がある。これがタルマセ釣りと同じ効果を生む。
 勿論、効能書通りに魚の注目を引く要素もある。要は、イワシの頭も信心からである。

落とし込みは迅速に!
 
 カワハギの水中遊泳能力は感心の一語に尽きる。彼らはドラエモンのタケコプター並みに上下左右にと変幻自在に泳ぎ回っては餌を掠め取っていく。
 なかなかハリに掛からないのは、あのおちょぼ口のせいだ。あの可愛らしい口でエサを吟味するかのように、何度も出し入れを繰り返す。ヘラブナの就餌行動によく似ている。だから、奴っこさんが餌を吸い込んだ瞬間にアワセてやらないとなかなか釣れないのである。

 エサを盗られる危険性が一番高いのが着底時だ。オモリが底近くの遊泳層を突き抜け、すとんと海底に届くと糸ふけが出る。釣り人は急いで糸ふけを取る。そして、底ダチを確認してから誘いの動作に入る。この間が一番無防備な時間だ。

 カワハギは初めて目にする珍味に、何の警戒もせずに飛びついてくる。ところが、糸は弛んだ状態だから、アタリが竿先になかなか出難いのである。時々、糸ふけを取った瞬間にググッときて慌てさせられたりする。これは偶然アワセのタイミングが合い、空アワセが的中した時だ。
 落とし込みと糸ふけを取る動作は迅速にやるに限る。

餌の付け方は?

   アサリの付け方も重要だ。カワハギは餌を吸い込んだり吐き出したりして、餌を上手に失敬する。餌付けが悪いと、吸い込んだ時に餌だけが簡単に外れてしまう。

 釣り場に着く前にアサリの剥き身は海水ですすぎ、ぬめりを取っておく。釣りの最中は絞ったタオルの上に数個づづ並べておく。表面が乾いてかじかんだ指先でも餌付けが楽だ。

 まず吹管にハリを通す。その後ベロを縫い刺しにし、縫い終わったらハリ先を軟らかいワタの部分に隠すように埋め込む。これで餌付けはバッチリだ。

 餌の点検をこまめに行うことも大事だ。敵は餌取り名人だ。知らぬ間に餌が無くなっていることなどしょっちゅうだ。餌が残っていても安心は出来ない。べラなどに突っつかれた餌はボロボロになっている。ヒモが出ていれば、そこを咥えて餌だけを吸い込んでしまう。上げてみて、餌が垂れ下がっていたら必ず付け直した方がいい。

誘い方

 アタリを待って合わせる普通の釣り方のほかに、タルマセ釣り、タタキ釣りなどがある。タルマセ釣りはわざと糸ふけを出して、餌の吸い込みを良くする釣法だ。

 まず、竿先を目の高さに上げた状態でオモリが底に付くようにする。その状態から竿先を水面スレスレ迄下げて、仕掛けにタルミをつくってやる。2、3秒待って、スーっと竿先を目の高さまで聞き上げてくる。この時にモゾッと竿先に異常を感じたら、体を大きく仰け反らせて合せてやる。腕ではなく体全体であわせるのがミソなのである。

 タタキ釣りは竿先を間段なくチョコチョコと上下させて、誘いを繰り返す。誘い幅は大きくても枝スの2倍までぐらいまでとする。枝スの長さが10cmなら15〜20cmで充分だ。これは誘いの効果もさる事ながら、餌を加えた瞬間を即座に感知できる利点がある。

アタリの取り方

   浅場と深場ではアタリの出方が違う。20m前後の浅場なら、微妙な前アタリまでよく分かる。竿先にモゾモゾと押え込むようなモタレが出る。ここで、大きく体を仰け反らせてアワセてやるのが基本の型だ。

 軟らかい竿を使っていても、浅場だと前アタリがよく分かる。だから、食い込みのいい軟調の竿を好んで使うベテランも多い。しかし、深場だと微妙な前アタリを感知するのは至難の業だ。誘いをかけて、糸にテンションが掛かったところでモタレを感知してアワセることが多くなる。ゴツゴツと竿先に来てからだとアワセが間に合わないからである。

 初心者には、弾力の少ない棒のような竿の方がおすすめかも知れない。固い竿は遊びが少ない分アワセのタイミングが早まるからだ。
 カワハギ竿は全長2m前後のものが多い。深場では長ければ長いほどアワセが効く。しかし、長いと、その内に持ち重りがして、腕が疲れてしまう。

ハリは小さい方がいいか?

   カワハギ専用のハリが何種類か市販されている。1号よりも小さいハリもある。しかし、通常では1号で充分だ。あまり小さいとハリ掛かりが悪くなる。
 11月頃に木っ端カワハギが荒食いするが、この時は0.8号に落としてもいい。
 カワハギ釣りは底を釣るせいか、ハリ先が意外に早く摩耗する。爪の甲に当てて引っかいてみた時に、ハリ先が滑るようだったら交換時だ。



巻き上げは手を休めずに

   巻き上げている最中に突然フワット軽くなる。これも、カワハギの特徴だ。ここで決して手を休めないことだ。更にスピードを上げて一気に巻き上げるようにする。再び手元に重量感が戻ってきたら、通常の巻き上げ速さに戻してやる。

 巻き上げ時には、常に一定のテンションが掛かっていることが重要だ。カワハギは口腔が固い魚である。歯を食いしばると、テコでも開けられない状態になってしまう。だから、カワハギはハリ掛かりしていなくて、ただハリを咥えただけで釣上げられることがしばしばあるのだ。

 そんな掛かり具合の時に、何かの拍子で噛み合わせた歯を開いてしまうと魚はそのまま逃げてしまう。糸を緩めた時に、よくそんなことを経験する。

外道の餌取り

   半分齧りかけの餌が残っていれば、それはベラなどの外道が突っついた証拠だ。こんな時は、タイミングが合わないなどと落胆することはない。カワハギならそっくり餌が無くなっているはずだ。外道で腕試しをしながら、じっくりと潮時を待つことだ。
 餌が垂れ下がったりしていると、敵の思うつぼだ。餌は音もなく吸い込まれてしまう。

時化後は出船を見合わせる

   時化後は水温が急に下がったり、濁りが出たりする。こうなると、カワハギは海底の岩礁に張り付いて、あまり餌を追わなくなる。
 そんな条件の時には、根掛かり覚悟でオモリより低い位置に餌が来るようにする。オモリの直ぐ上から長めの枝スを出すとか、小型テンビンを使ってキス釣りの仕掛けのようにしてもいい。
 一番いいのは出船しないことだ。分かっているけどやめられないのが道楽だからムリかな?

本当に旨い魚か?

   冬のカワハギは絶品だと言われている。特に、肝が美味いと皆が口を揃える。肝和えなどと得意になってひけらかす人も多い。私もやってみたが、生臭くてとても食えたものではなかった。

  産卵期の5〜6月が最高に旨いと書いてある資料もあった。たしかに、イサキ釣りの外道で釣れる1キロもあろうかと思われる腹パンパンの大ウマヅラの肝は、肥えて食べ応えがある。
しかし、冬にしろ夏にしろ旨いとまで感動した記憶は一度もない。白身魚で淡泊なカワハギ料理は玄人すじに人気のようだ。


釣り場



城ケ島沖

   城ケ島を間近に見る釣り場で、磯に立つ人々の目鼻が見えそうな時もある。夏場は10m前後の浅場を、冬場は30〜50m前後の水深を狙う。ここは起伏の激しい岩礁地帯なので、釣っていても気が抜けない。直ぐ根掛かりするからだ。

 カワハギを狙って通年乗合船を出しているのは、久里浜久比里港の船宿だけになってしまった。久比里の船が釣るのはせいぜい剣崎沖迄で、他の場所が不調でない限りは城ケ島沖まではほとんど遠征しない。だから、松輪港や地元城ケ島の仕立船が主に狙うだけなので良型が期待できる。

 小網代港や佐島港からも10月頃になるとカワハギの乗合船が出る。こちらから出船すれば、釣況によっては城ケ島沖の良型のカワハギに会うことが出来る。
 諸磯沖や佐島・亀城根は相模湾の船宿が得意にしているカワハギポイントである。

剣崎沖

   間口港の沖合い40m前後の岩礁地帯を狙う。海底がゴツゴツしていて根掛かりが多い。ここも年間を通して狙える。どちらかというと、数よりは型狙いで攻めるポイントだ。
 竹岡沖が不調な日や、小物が嫌いな客が多い日にはここを攻める。

竹岡沖

   年間を通して狙える好釣り場だ。竹岡沖には水深10m前後の甚九郎根やゲバチ根がある。この根の西側一帯がポイントになる。この辺一帯は平根で、根掛かりは少ない。季節により釣り場の水深は20m〜50mまで変わる。ここには鴨居大室港や久里浜久比里港から乗合船が出る。

 カワハギは木枯らしが吹くようになると、どんどん深場へと落ちていく。やはり、狙い目は11月頃の落ちのシーズンのカワハギだ。例年大釣りが続く。竿頭は連日束を越す釣果を上げる年もある。
 この活況も2〜3週間で終わる。不思議な自然の営みだ。釣れるカワハギは15cm前後の小型が多い。


仕掛け





ハリ

   カワハギ専用バリの1号が標準。ハリ数は2〜3本。食ってくるのが下バリだけなら2本で充分だ。
 落ちの時期に釣れる木っ端カワハギには0.6〜0.8号を使うこともある。
 カワハギは口の周りが、超硬いのでハリの吟味は重要だ。特に、歯を噛み締めて上がってきたものはハリを外すのに苦労するが、この時に折れてしまうものもある。次からは同じ種類のハリは絶対に買わないことにしている。

ハリス

   ハリスの太さはあまり釣果には関係しないと考えていい。通常は2〜3号を使う。普通のナイロンでも充分だが、強度が心配な人は値段が高いけれどもフロロカーボンにする。
 枝素は短い方がアタリが取り易いし、アワセも効く。

リール

   小型両軸リールで、新素材の道糸3号が100mも巻ける物であれば何でもいい。カワハギ専用と銘打って売られているのもある。竿もそうだがリールも軽いに限る。リールは高級品でなければ大抵3千円前後で買える。
 私は、ハナダイのコマセシャクリ、マルイカ、イサキと兼用で使っている。

竿

   専用竿が各種市販されている。8:2調子で胴のしっかりした物がいい。どれもほとんど同じだ。どんなものであれ使っていると、自然と体の方から合せるようになるから不思議だ。
 7:3調子の物と2種類あると理想的だ。7:3調子は20m前後までの浅場用として、8:2調子はそれよりも深い水深のポイントを狙う時に使うようにする。


食べる



下処理

   まず、口縁部とツノを出刃包丁で切り落とす。続いて、ヒレを包丁の刃で押さえて抜き取る。背鰭の一部が長い紐状に変形しているのがオスだ。次に尾鰭を切り落とす。切り落とした口縁部のところの皮を剥がし、そここから一気に皮全体を剥ぎ取る。皮はベロンと簡単に剥ける。カワハギの由来もここからきている。

 残酷だが目玉を抉り出し、頭をバサット落とす。切り口から内臓を傷つけない様に、腹に包丁を入れる。内臓から肝だけをつぶさないようにソット取り出す。肝にへばりついている黄色い大豆のようなものは苦玉だ。破かないように取り除く。取り出した肝は、流水にさらして血抜きをする。腹にはたいしたものが入っていないはずだが、水洗いしておく。

 身は三枚におろす。小骨がないから素人でも簡単だ。ウマヅラの身はヒレの近くが赤っぽくなっている。刺し身にするならこの部分は使わないようにする。なべ料理や煮付けなら、気にせずそのまま使う。

みりん干し

   三枚におろした身をみりんダレに漬けて生干しにする。みりんだけでもいいし、醤油、砂糖を加えて好みの味に調整してもいい。漬ける時間は一晩で充分だ。後はザルに並べて冷蔵庫の中で表面を乾かす。目安は指で押した時にべたつかないことだ。

 ゴマを表面に振りかけると、焼いた時に香ばしくなる。脂のない魚だから冷凍保存すれば長持ちする。酒粕や西京味噌に漬けておいても保存食として食べられる。

鍋料理

   冬場の鍋料理は、日本人の食卓に欠かせない。下拵えをした頭、背骨、身をぶつ切りにして、豆腐、キノコ、野菜、鶏肉、カキなどと一緒に鍋にぶち込む。カワハギ自体は淡泊なので寄せ鍋風がいい。

 肝が入るとコクがでるが、なんせ貴重品で量が少ない。大漁の時にしかこれは堪能できない。カワハギの淡泊さを味わいたいなら、一緒に入れる材料は豆腐とネギぐらいにする。これの熱々のをポン酢で食べると最高だ。小骨がないので老人や子供には安心だ。

刺し身

   三枚におろした身の部分を薄造りにする。大皿に並べると、見た目はフグ刺しにそっくりだ。素人には皿の絵柄が透き通って見えるぐらいに薄く造るのは至難の業だ。それでも、極力薄く造ることだ。厚めに切ったものはゴムを噛んでいるようで旨くないものだ。

 ワサビ醤油でもいいが、ポン酢に紅葉おろしがよくあう。肝はさっと湯通しをするといい。そうすることで、特有の生臭さがなくなる。湯がいた肝はそのまま食べてもいいが、タレに溶き、これに刺し身をつけてたべてもいい。

 肝を生で食べると言う人も居るが、実際には生臭くてそんなに美味しいものではない。たっぷり薬味を効かせたキモ合えにする。

天ぷら

   天ぷらが意外に旨い。私は釣ったショウサイフグを自分で捌いて食べることがあるが、これの天ぷらとよく似ている。

 念の為に付け加えておくが、フグの内臓は生ゴミとして捨ててはならないことになっているし、保管も厳重に管理することが義務づけらている。

 私は船の上で身だけにして持ち帰ることにしている。しかし、これも周りの客から嫌われるので、素人にはフグはなかなか厄介な代物だ。


こぼれ話



イトウさんのこと

   カワハギ釣りに高価な和竿の効果を説く人も居る。しかし、その違いが分かるには何十年もかかるらしいから、私などには無縁のことかもしれない。
 それでも、私は1本だけだがカワハギ用の和竿を持っていたことがあった。セミ鯨の穂先の付いた奴だった。捕鯨が禁止されて、鯨のひげも手に入りにくくなっていた時代だった。金沢八景の駅裏の釣具屋で、月給の3割近くもはたいて買ったものだった。

 そのうち手入れが面倒くさくなって、イトウさんに上げてしまった。イトウさんには一度だけだが借りがあった。それがずっと尾を引いていたから、竿を手放した時は正直ホッとして肩の荷が下りた感じだった。

 イトウさんは多少アル中気味なところがあった。自称大森の料亭の御曹司ということになっていたが実際のところはわからなかった。大森、川崎と、随分とはでに遊び歩いていたようだった。私も一度川崎の堀の内に連れて行かれて、遊ばせてもらったことがあった。こんなことは自前でするのが常識なのだが、事の成り行きでご馳走になってしまったのである。これがずっと後まで、胸につっかえたままになっていた。

 この時、私の相手になったのが年増のお世辞にも美人と言えない女性だったので、この種の遊びはこれが最初で最後の経験になってしまった。

 競馬もそうだった。最初に買った馬券がゴール寸前まで当たりだったのが、土壇場でひっくり返ってしまったのだった。競馬も、これっきりでやめにした。

 当時勤めていた会社の近くに、彼が釣具店を出したのが知り合うきっかけだった。彼は一人住まいだったが、時々たどたどしい日本語を話す女性が訪ねてきていた。大森の飲み屋で働いている女性で、形式的に夫婦になっているだけだと彼は言い訳した。奥に上がり込んで、彼女の手作りのキムチをご馳走になったこともあった。

 こんな裏通りに店など出しても売れるかしらとサラリーマンの私が心配するほどの立地条件だったから、すぐに店を畳む羽目になってしまった。客の来ない釣具店の店先は、毎晩きまって宴会場に変わった。酒に卑しい釣り仲間がいつもとぐろを巻いていた。心有る人たちは次第に彼から離れていってしまった。彼がかわいそうで見ていられなかったからだ。

 彼は寂しい人だった。離婚歴もあったようだ。大森界隈に住んでいるという年老いた母親に引き合わせてくれたこともあった。その気で見れば料亭の御隠居さんに見えなくもなかった。しかし、それ以上に何か訳ありに見えてしょうがなかった。

 そして、イトウさんはその店舗を売り払い、海岸端にある私の団地に移ってきたのだった。それまで、彼は1、2度釣りの帰りに我が家に立ち寄っていた。その時から、ここが気に入っていたらしい。
 引っ越してきた時には別の連れが居た。やはり大森の飲み屋で働いていた女性で、今度は日本人だった。「未だ他人の奥さんだ」と彼は悪びれる風でもなく彼女を紹介した。

 酔っ払って深夜でも構わず私の家を訪ねるようになった。彼は昼に仕事をしなくても暮らせる身分だった。勤め人の私には翌日があった。周りの目も気になった。私は意図的に彼から遠ざかっていった。
 それから仕事も変わり、私は日本に居ることも少なくなっていた。歩いて3分ほどの距離だったが、すっかり彼の存在が私の中から抜け落ちてしまっていた。

 既に私の近所から居なくなっていたことは知っていたが、「イトウさんが亡くなったらしいよ」と人伝に聞いた。その頃には、私も彼の気持ちが漸く理解できる年頃になっていた。

初心者の私が赤井三郎社長を負かした話

   赤井電機に入社したての頃、社内のカワハギ釣り大会に参加した。参加者にはハゼ、シロギス、カワハギなどの小物釣りでは都釣連の大会でも毎回上位入賞するような名人がゴロゴロ入っていた。

 この日は城ケ島が集合場所だった。船頭を入れて3、4人しか乗れない小型船に分乗して、城ケ島周りを攻めることになった。参加者は全部で30人ほどはいただろうか?
 私はそれまでカワハギの顔も見たことがなかった。その私が7尾釣上げて優勝してしまったのである。夏の潮で、海は茶色に濁っていた。潮が濁っているとカワハギはあまり釣れないものだ。
 それまでの私は渓流釣り師だった。カワハギ釣りにはヤマメや岩魚釣りに通ずるところがあったようだ。

 社員にとって、赤井社長は一代で東証一部上場企業をつくりあげた神様のような人であった。新入社員の私は、その赤井さん(誰でもさん付けで呼ぶのが某電機の社風だった)の手から直に優勝カップを手渡され、握手までしてもらったのである。結構感激したことを覚えている。
 赤井さんの手が女のように案外ふっくらとして軟らかかった。このことが随分と印象深かったらしく今でもはっきりと覚えている。

 赤井さんは、ドルショックの年のクリスマスイブに志賀高原のホテルで急死した。様々な噂も流れたが、週刊誌は彼の個人的なことは書かなかった。我々一般社員も、等々力の豪邸に焼香に行った。隣は児玉誉士夫邸だった。

 その後赤井電機は急坂を転げ落ちるようにして衰退していった。銀行筋には玉ねぎの皮をむくように資産を剥ぎ取られ、再建の名目で送り込まれた名うての乗っ取り屋たちが会社を引っ掻き回し続けた。多くの幹部たちは彼らに擦り寄り、遺産を食いつぶし、会社の寿命を縮める手助けをした。
 そんな状況下でも某電機は20年近くも生き長らえた。しかし、今は香港企業に買収されて、更に転がされ、名前こそそのままだが得体の知れぬ会社に成り下がってしまった。

 赤井氏は、生前何度か等々力の豪邸に我々独身社員を招待してくれた。その時は貿易部の女子社員なども一緒だった。彼流の粋な計らいだったが、それがきっかけでカップルができたと言う話は聞かなかった。
 壁にはめ込まれたガラス棚には竹竿の逸品が、それこそ、ごそっと飾られていた。その中の何本かは、あの世で活躍しているはずだ。